論文紹介


アトピー性皮膚炎の光線療法(PUVA療法)

    笠松正憲 (名古屋市立大学皮膚科)


掲載雑誌: (1) 名古屋医報,第1043号、p11〜13、1994.4.

        (2) 専門医から臨床医へ(名古屋医師会学術委員会発行)、p150〜152,1996.3.

コメント: 名古屋市立大学皮膚科アレルギーグループでアトピー性皮膚炎に対し光線療法を試みていたころ、臨床開業医を対象とした雑誌に、大学の専門特殊治療を紹介する目的で書いたものです。開業医 となった現在も、医療用紫外線照射装置(M−DMR−320型) を用い、アトピー性皮膚炎の光線療法を継続しております。


はじめに

 アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis:AD)の病態について,最近Th2細胞由来のサイトカインInterleukin-4(IL-4)の関与が指摘される1)など様々な側面からのアプローチが進んでいるが解明には至っていない。個々の患者により発症因子や憎悪因子の異なるmulti-factorialな疾患であり,すべての患者に画一的な治療法を設定するのは困難な面がある。AD治療の目標は"病気を完治すること"ではなく,"病気をコントロールしながら普通の人と変わらない生活をenjoyすること"にある。この"普通の生活"を目標に,個々の患者に合わせたきめ細かな生活指導をどう実践していくかが治療のポイントである。基本的な皮膚スキンケアを欠かさず行い,憎悪因子となる諸要素から皮膚を守ることが最も重要である。まず第1に皮膚を清潔に保つこと。すなわち,毎日入浴し石鹸を使い環境抗原を洗い流すことである。石鹸使用による皮脂の減少に対して(特に冬の入浴後)は乳液やローションを十分外用し,皮膚の乾燥を防ぐことも忘れてはならない。第2に,二大憎悪因子と言われる夏の発汗と冬の乾燥を避けることである。以上詳しく述べたのは,こうした基本的なスキンケアを励行することで大部分のADは極端な,あるいは突飛な治療を試みなくとも十分コントロール可能な病気であるからである。しかしその一方で,最近特に青壮年の難治性アトピー性皮膚炎が増加しているのも事実であり,ステロイド外用,抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤内服という従来の治療法のみでは治療効果が得られないことも多い。そのような症例に対し光線療法を併用する事で,皮疹をコントロールできることも多い。この分野における光線療法は,今後一層注目されるものと考えられる。光化学療法は,1970年代中ごろから実用化に入った光応用技術の一つであり,光化学と医学の共存領域に多くの研究課題を提供している。

PUVA療法

 光化学療法は光と感光性物質との相乗作用で病変部に光化学反応をおこさせ,この反応により病気を治す治療である。UVA域(320〜400nm)に光吸収帯を持つ感光物質が治療に使われる。PUVA療法では,植物から抽出される代表的な光毒性物質ソラレン誘導体を使用する。PはPsoralenの,UVAはUltraviolet-Aからの造語である。

歴史

 植物と日光を併用した白斑の治療法は極めて古い歴史を有し,古代インドでは紀元前1400年頃にPsoralea corylifolia(Psoralen含有)という植物と太陽光線によって白斑の治療が行われた記録を見いだすことができる。1947年にはAmmi majusの実からPsoralenの結晶を分離することに成功した。かくして,Psoralenを使用した白斑の光化学治療が確立され,1970年代中ばから乾癬に応用されるに及んでPUVA療法と呼称されるようになった。その後,ADをはじめ菌状息肉症,掌蹠膿疱症,扁平苔癬などの疾患にも試みられ,一部の症例では効果をあげている。ADのPUVA療法についても以前より多くの報告がある。当教室のMizuno2)は,AD治療法の第一選択はあくまでもステロイド外用であるという考えからステロイド外用併用のPUVA治療を報告した。その後、水口ら3)のステロイド外用なしで入院患者に対し効果をあげた報告,梶山ら4)のステロイド外用併用で外来患者に対し効果をあげた報告がある。

治療法

 PUVA療法には外用PUVA,内服PUVA,入浴PUVAなどがあるが普通は外用PUVAが主になる。0.3%8-methoxy-psoralen(8-MOP)ローションまたは軟膏(大正製薬)を塗布し,UVAを照射する治療である。我々の教室では,8-MOPローションを単純塗布し,2時間後にDermaray M-DMR-TS形(エーザイ・東芝製)<図1>を用い全身にUVA照射を行っている。治療に先立ち健常部で最小紅斑量(MED)を測定しUVA照射量の基準とする。照射量は1/3MEDからはじめ2/3MEDまで増量する。すべての患者にPUVA療法が有効とは限らないため,可能な限りPUVA療法の導入は入院治療で行い,外用薬は白色ワセリンに制限し,PUVA療法単独の効果をみている。利点 ADに対するPUVA治療の利点は@重症ADに効果が期待されることAステロイド長期外用に伴う副作用が除去できることである。

図1 M-DMR-TS型

 

副作用

 PUVA療法の副作用として発癌と白内障が報告されている。本邦ではADに対するPUVA療法での発癌報告はない。これは歴史の浅さからも当然である。乾癬患者におけるPUVA治療の発癌報告も本邦ではまれであり,その腫瘍悪性度は高くない。また,白内障などの眼症状はADの合併症とも重なるため,PUVA治療によるものか断定しがたい。いずれにしろ十分な眼保護と治療前後の眼科検査は不可欠である。

適応基準

 吉池ら5)は、A・大項目 1)従来の治療法に対して抵抗性である 2)従来の治療法(主に外用ステロイド)による副作用の発現 B・小項目 1)重症である 2)15才以上である 3)従来の治療法の拒否 C・除外項目 光線過敏 とし,絶対適応を大項目の2つを満たすもの,相対適応を大項目1つまたは小項目2つ以上を満たすものとしている。我々も同様の基準でPUVA治療を行っている。

効果発現

 水口ら3)は@女性A最小光毒量の低い者B重症度の高い者C末梢血好酸球の高いものにより効果が期待されると述べている。

作用機序

 Dannoらはcompound48/80によるマスト細胞の脱顆粒の抑制を,堀尾らは実験的に@ATPase陽性Langelhans細胞の減少APUVA部位の接触アレルギー感作のhapten特異的免疫寛容誘導B感作部位以外へのPUVAの惹起反応の減弱CTリンパ球の遊走の抑制DTリンパ球のIL-2産生の抑制E肥満細胞の脱顆粒の抑制Fヒスタミンの遊離の減少を報告している。また,吉池ら5)は,皮膚組織学的にマスト細胞・表皮ケラチノサイト・表皮ランゲルハンス細胞の減少を報告している。著者はADのPUVA療法による組織学的な表皮厚減少,表皮ランゲルハンス細胞の減少,血液中好酸球の減少,特にEosinophil cationic protein(ECP)などの皮膚傷害性タンパクを多く含む低比重好酸球の減少を報告した。PUVA療法の作用機序としてこのように様々な報告があるが,詳細は不明である。

最後に

 ADに対するPUVA療法は,皮疹消失までに多くの治療回数を要し,皮疹消退後の維持照射も頻回に行う必要がある。最近,ステロイド外用剤の副作用に対する不適当なマスコミ報道によりステロイドに対し過度な恐怖感を持つ患者が激増している。"ステロイド外用剤を使用しない光線治療"を希望され来院されることが多いが,あくまで"光線治療はステロイド外用剤使用量を減らす一手段"として考えたいものである。


文献

(1)笠松正憲ら:高感度Interleukin-4測定法(Sandwich ELISA法)とアトピー性皮膚炎患者における血清値について. アレルギー, 42,878〜882,1993

(2)Mizuno N:Topical PUVA-review on basic and clinical problems. Korean J. Dermatol, 18,5〜26,1980

(3)水口聡子ら:アトピー性皮膚炎重症例に対するPUVA療法(第1報). 日皮会誌, 100,1251〜1255,1990

(4)梶山理嘉ら:アトピー性皮膚炎重症例に対するPUVA療法(第2報). 日皮会誌, 101,43〜46,1991

(5)吉池高志ら:アトピー性皮膚炎のPUVA療法. 臨床皮膚科, 45,175〜179,1991


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