論文紹介


Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann'sdisease の一例

笠松正憲、横田径子、森田明理、辻 卓夫 (名古屋市立大学皮膚科)

一木 貴、水野美穂子、和田義郎 (名古屋市立大学小児科)


掲載雑誌:西日本皮膚科 Vol.55,No4,1993,665〜669


要約

4才、男児。Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann's disease(FUMHD)の一例を経験した。皮疹の形態は紅斑,丘疹,小水疱,膿疱,および壊死性痂皮と多彩であった。その後の発熱・全身状態の悪化に伴い、皮疹が急速に全身へ拡大し、個診は大型化し多くは潰瘍化をみた。本症例は、MuchaーHabermann's disease(MHD)の重症型であるFUMHDの範躊に属する症例と考えられる。ステロイド投与で解熱をみたが皮疹の新生は続いたので、DDS(4,4'-diamino-diphenyl sulfone:商品名レクチゾール)を使用したところ皮疹の新生は止まった。DDS内服8週間で皮疹は瘢痕及び脱色素斑を残し一旦消失するも、内服中止後3週間で再発した。現在、DDS内服で皮疹はほぼ消失している。

はじめに

 FUMHDは、1966年Degosら1)により最初に報告されたMHD(pityriasis lichenoides et varioriformis acuta)の重症型であるが、病理組織像はMHDに一致する。通常のMHDとの違いは、臨床的に@高熱をはじめ全身症状を伴うこと、A急速に進行する広範囲の潰瘍性皮疹を呈すること2)である。今回我々はFUMHDの一例を経験したので、本症の特徴を述べるとともに、これまでの報告をまとめ文献的考察を加えた。

症例

症例。 4才、男

体格。 身長106.4cm、体重18.3kg

初診。 1990年5月18日。

家族歴・既往歴。 特記することなし。

現病歴。 1990年5月2日、体幹に無症状性の淡紅色紅斑、丘疹が出現。次第に数が増加。

現症。 初診時、体幹および四肢屈側を中心として淡紅色の紅斑、丘疹、中心に小水疱・膿疱・壊死性痂皮を伴った紅色の丘疹や結節が散在。個疹の大きさは爪甲大までであった図1。口腔粘膜疹は硬口蓋に径5mm大の小水疱が2つあった。扁桃発赤、咽頭痛、粘膜カタル症状はなかった。両側性の大豆大表在リンパ節を頚部、鼠径にそれぞれ2個触れた。全身状態は良好で発熱はなかった。即日入院となる。

病理組織学的所見。 淡紅色丘疹と壊死性痂皮を伴った丘疹より生検を行った。紅色丘疹:表皮には軽度の錯角化があり、基底膜の一部では弱い液状変性とリンパ球の浸潤が見られる。真皮には上層、特に乳頭部の血管に浮腫を伴ったリンパ球様細胞の浸潤、赤血球の遊出がある図2。壊死性痂皮を伴った丘疹:表皮では角層の肥厚と不全角化、錯角化、リンパ球の浸潤と液状変性、細胞内外の浮腫が見られ、強い壊死変性像を呈する。真皮では血管周囲性の密なリンパ球様細胞の浸潤、赤血球の遊出があり上層に強い。血管内皮細胞の腫大もある図3。両組織はリンパ球性血管炎の像である。異型細胞は見られない。以上の所見はMHDの組織像として矛盾しない。蛍光抗体法直接法でIgM,IgA,IgG、C3の沈着を調べたが陰性。酵素抗体法PAP法で浸潤細胞のCD4、CD8発現を調べたところ、血管を中心にしてその直上の表皮まで扇型にCD8陽性細胞がみられた。

入院時臨床検査成績。 WBC 8300/μl、RBC 470万/μl、Plt 24.8万/μl、CRP 0.3mg/dl未満、ASLO 50IU/ml未満、ESR 9mm/hr、IgG 1177mg/dl、IgA 109mg/dl、IgM 255mg/dl、抗核抗体陰性、CH50 43.9IU/ml。IgMの高値のほかは血液像、生化学所見に異常はなく、CRP、血沈も正常域であった。ウイルス抗体価は、単純ヘルペス、水痘・帯状ヘルペス、HB、HTLV−T、V、アデノ、コクサッキー、EB、サイトメガロなど調べた限りでは有意の上昇はなく、水疱のTzanck testも陰性。トキソプラズマ抗体は陰性。細菌検査は、咽頭培養・皮膚培養ともに正常細菌叢であった。

経過及び治療。 入院2日目から突然発熱し、38〜40度の熱発が続き、経口摂取の状態が悪くなった。このためIVHでの全身管理を行った。入院3日目から急速に皮疹の範囲が体幹・四肢全体へ拡大した。皮疹の形態は多彩であり変化に富む。すなわち、個疹は淡紅色の紅斑,丘疹で始まり、そのまま消退するものと中心に小水疱・膿疱を生じ水痘状になるものがあった。その後、紅斑、丘疹は大型化し中心が壊死性痂皮となった。少し遅れて丘疹全体が痂皮化し、それが剥離し糜爛、潰瘍化した。陰嚢、鼠径、間擦部の潰瘍は特に大型で最大径は30mmであった。これらの色々な段階の皮疹が混在するため多彩な臨床像をしめす図4。抗生剤、抗ウイルス剤は無効。プレドニゾロン点滴20mgで解熱したが、皮疹の新生は続いた。DDS25mg内服を追加したところ皮疹の新生は止まった。DDS内服8週間で、皮疹は瘢痕及び脱色素斑を残しいったん消失したが、DDSを一時中止したところ3週間後に皮疹の再発をみた。皮疹の再発は、以前皮疹がなく健常であった部位に生じた。現在はDDS内服、プレドニゾロン内服で治療中である。皮疹の新生は続いているが少数で、大型化せず個診の大きさは5mmまでである図5

鑑別診断。 

1)水痘重症型 皮疹が大型でカタル症状がないことの他、水痘ウイルス抗体価の上昇がないことより鑑別できる。

2)薬疹 自験例では皮疹出現前に薬剤の使用はなかった。

3)lymphomatoid papulosis 組織に異型浸潤細胞が見られないことより鑑別できる。

かんがえ

 FUMHDの症例は、1966年にDegosら1)が”Parapsoriasis Ulceronecrotique Hyperthermique”として報告したのが最初である。そして、1969年にBurkeら2)が、重症のMHDFUMHDという病名を用いて以来この病名が一般に使われている。臨床的に通常のMHDでは、皮疹が自然治癒傾向を示し全身症状を伴わないかあるいは軽微で、個疹の大きさも10mm程度までの小型である。これに対し、FUMHDでは初期はMHDと同じ臨床経過をとるが@高熱をはじめ全身症状を伴うことA急速に進行して広範囲の潰瘍性皮疹となること2)が特徴である。しかし、病理組織像はMHDに一致する。

 我々が調べた得た限りでは、本症はDegosらの報告以来世界で9例の報告がある。松村ら3)の症例はMHDとして報告されたが、軽度ながら全身症状を伴っていること、皮疹が30mmと大型であることからFUMHDとして良いと思われる。これら9例を集計すると、男:女=6:3、年齢は7〜54歳、病期持続9〜20ヶ月、有効治療はステロイドかDDSであった。自然治癒と思われる症例も見られた。再発例は1例、死亡例は1例である。自験例は10例目である。自験例の特徴は@4才の低年齢発症であったことA病期間が8週間と短かかったことBDDS内服が有効であったことC再発があったことD潰瘍が最大30mmと大型であったこと、である。

 本症例ではDDSが著効した。DDSは、持久性隆起性紅班・MHDなどの血管炎群、好酸球性膿疱性毛嚢炎(太藤)などの無菌性膿疱性疾患群、ジューリング疱疹状皮膚炎などの水疱性疾患群、らい、色素性蕁麻疹(長島)など皮膚科疾患ではよく用いられる薬剤である。DDSの抗菌作用機序についてはほぼ解明されているが、非感染性皮膚疾患に対する作用機序については不明な点が多い。@組織または細菌の多糖体と結合し反応性をかえて病的過程への関与を阻止するという仮説4)Aアルサス反応抑制5)Bライソゾーム酵素遊離抑制による組織傷害回避6)Cmyeloperoxidase-H2O2-halide系抑制7)D活性酸素除去説8)ELTB4の結合抑制9)など様々な考え方がある。また、最近ではadhesion moleculeに対する効果としてFインテグリンスーパーファミリーの抑制10)が報告されている。

 MHDの分類、帰属に関して問題とされるのはMHDとPityriasis lichenoides chronica(PLC)との異同である。Szymanski11)は、MHCPLCが発症病理の異なった各々独立した疾患であると考えた。『MHCは血管炎であり表皮の変化は二次的である。PLCの主病変は表皮に原発し血管の変化は伴わない』との考えである。しかし、Marksら 12)は組織学的に両者を同一疾患とし、Leverら13)も同様に両者を同一としその違いをsevereityの差と考えた。MHDの重症型である自験例では、リンパ球性血管炎の像は強いが表皮障害がそれに比べ弱い組織像と血管炎と表皮の強い壊死変性像が共存する組織像が同じ時期に得られた。これは一次的変化が血管炎であるとするSzymanskiの説に近いものである。Szymanskiは、MHDの組織像を@Macule(Early)AMacule(Scaling)BPapule(Scaling)CVesicleDNecrotic hemorrhagic papuleの5段階に分けた。図2の病理組織学的所見はB、図3はDに相当する。

 MHDの蛍光抗体法所見に関しては段野ら14)、稲田ら15)の記述があり、それぞれ陽性率は低いもののC3、IgG、IgM、IgAに対する陽性例を報告している。

 MHDの病因はまだ解明されていない。感染性微生物(細菌、ウイルスなど)に対する過敏反応による血管炎との考え方がある。自験例では調べた限りでは有意の上昇はなかった。しかし未知ウイルスも含め関与の可能性は残る。一方、FUMHDで末梢血液中や病変部に好酸球の増加が見られた症例16)が報告されており、初期潰瘍病変に由来する内因性のアレルギー反応(id反応)も否定できない。自験例では血中、組織中ともに好酸球の増加はなかった。

 本症例はMHDの重症型で、予後は特に興味深い。宇仁田ら17)は、MHD様皮疹を初発としたMalignant histiocytosisを報告した。発疹出現後3カ月に異型組織球の増殖をみた症例である。また、Freemannら18)はMHDの2年間の治療後にHistiocytic medullary reticulosis(Malignant histiocytosisと同一疾患)が発症した例を報告した。このような症例の存在をふまえ今後本例の経過を注意深く観察していきたい。


(図1)初診時臨床像。
体幹・四肢屈側・鼠径を中心に、爪甲大までの紅斑、丘疹が散在。中心に小水疱・膿疱・壊死性痂皮を伴うものもある。個疹の大きさは爪甲大までであった。

(図2)病理組織像(400倍)。

 表皮には軽度の錯角化、基底膜の一部に弱い液状変性とリンパ球の浸潤がある。真皮には上層、特に乳頭部の血管に浮腫を伴ったリンパ球様細胞の浸潤、赤血球の遊出がある。

(図3)病理組織像(100倍)。 

表皮では角層の肥厚、錯角化、細胞内外の浮腫、リンパ球細胞の浸潤と液状変性、強い壊死変性像がある。真皮では、血管周囲へのリンパ球様細胞の浸潤、赤血球の遊出がありリンパ球性血管炎の像を呈する。血管内皮細胞の腫大もある。

(図4)皮疹の拡大像。 

淡紅色の紅斑、丘疹、中心に壊死性痂皮を伴った丘疹、さらには糜爛、潰瘍化するものと様々な段階の皮疹が混在し多彩な臨床像を示す。

(図5)2年後DDS治療中の臨床像 

 (表)FUMHDの報告例

報告者

報告年

年齢・性別 病期間 治療  再発
DEGOS1)

1966

36男 6カ月 抗生剤無効

ステロイド有効

なし
DEGOS1)

1966

30男 8カ月 抗生剤無効

自然治癒

なし
BURKE2)

1969 

15男  5カ月 抗生剤無効

外用ステロイド有効?

自然治癒

なし
BURKE2)

1969

12女 3カ月  ステロイド無効

自然治癒

なし
AUSTER19)

1979 

7女  3カ月 抗生剤無効

ステロイド有効

なし
WARSHAUER16)

1983

54男  20カ月 抗生剤無効

ステロイド有効

あり
NAKAMURA20)

1986

21男 4カ月 抗生剤無効

DDS有効

なし
松村3)

1989

54男 9週   抗生剤有効 なし
HOGHTON21)

1989

49女 8週死亡 ステロイド無効

抗ウイルス剤無効

抗生剤無効

免疫抑制剤無効

死亡

 


文献

(1)Degos R, Duperrat B, Daniel F:Le parapsoriasis ulcero-necrotique hyperthermique. Annales de Dermatologie et de Syphiligraphie 93:481-496,1966

(2)Burke DP, Adams RM, Arundell FD:Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann's disease. Arch Dermatol 100:200-206,1969

(3)松村宣子 他:特異な臨床像を呈したMuchaーHabermann病. 臨皮 43:1141-1144,1989

(4)Lorincz AL, Pearson RW:Sulfapyridine and sulfone type drugs in dermatology. Arch Dermatol 85:42-56,1962

(5)Thompson DM,Souhami R:Suppression of the arthus reaction in the guinea-pig by Dapsone. Proc R Soc Med 68:272,1975

(6)Barranco VP:Inhibition of lysosomal enzymes by Dapsone. Arch Dermatol 110:563-566,1974

(7)Stendahl O et al:The inhibition of polymorphonuclesr leukocyte cytotoxicity by Dapsone. J Clin Invest 62:214-220,1978

(8)宮地良樹,丹羽 負:DDSの抗炎症作用機序の検討. 皮膚科紀要 80:213-218,1985

(9)Maloff BL et al:Dapsone inhibits LTB4 binding and bioresponse at the cellular and physiologic level. Eur J Pharmacol 158:85-89,1988

(10)Booth SA et al:Dapsone suppresses integrin-mediated neutrophil adherence function. J Invest Dermatol 98:135-140,1992

(11)Szymanski FJ:Pityriasis lichenoides et varioliformis acuta. Arch Dermatol 9:7-16,1959

(12)Marks R, Black M, Jones EW:Pityriasis lichenoides-A reappraisal. Br J Dermatol 86:215-225,1972

(13)Lever WF,Schaumberg-Lever G:Histopathology of the Skin 7thed,Lippincott,p177-178,1990

(14)段野貴一郎ほか:Eosinophilic bodyの蛍光抗体法的研究. 臨皮 35:113-118,1981

(15)稲田修一ほか:皮膚血管炎の免疫組織学的検討. 広島県立病院医誌 15:47-51,1983

(16)Warshauer BL, Maloney ME,Dimond RL:Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann's disease. Arch Dermatol 119:597-601,1983

(17)宇仁田美恵子ほか:急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(MuchaーHabermann)様皮疹を初発としたMalignant Histiocytosisの一例. 臨皮 36:515-520,1982

(18)Freemann MJ et al:Histiocytic medullary reticulosis presenting as MuchaーHabermann's disease. Acta Derm Venereol 58:57-64,1978

(19)Auster BI,Santacruz DJ,Eisen AZ:Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann's disease with interstitial pneumonitis. J Cut Pathol 6:66-76,1979

(20)Nakamura S et al:Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann's disease and its successful therapy with DDS. J Dermatol 13:381-384,1986

(21)Hoghton MAR,Ellis JP,Hayes MJ:Febrile ulceronecrotic MuchaーHabermann's disease--a fatality. J Royal Society Med 82:500-501,1989


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